
グローバルに活躍する、北海道在住のイラストレーター・Kinpro新矢千里さんが登場! 何を隠そう、樋口卓治と中学時代の同級生であり、本サイト内企画「ふりがな英語」でのイラストレーションを手掛ける新矢さん。いったいどんな話が飛び出すのか、同級生対談をお楽しみください。
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新矢千里の海外進出
樋口 新矢は、ずっと札幌で仕事をしてるけど、札幌を拠点に選んだ理由は何なの?
新矢 インターネットの存在が大きかった。東京に出ようか迷ってたときに、地元でMacを導入してインターネットができるようになって、今では普通なんだけど、東京にいるデザイナーとインターネットを使ってデータのやり取りができるようになったの。
樋口 そうかそうか、それまでは郵便だったもんね。
新矢 うん。最初はデータで送るっていうとファックスみたいなもんかなと思っていたけど、それはどうやら世界とも交信できるらしいよって(笑)。それで、インターネットについてもっと知りたくなって、札幌の知人を訪ねたのね。その人はインターネットを使って、札幌の文化やアートを中心に発信していたのね。それで、その人たちの活動をずっと見ていたら、1年後にはあっという間に世界に広まったの。インターネットってすごい!と思って。
樋口 へえ〜。それで札幌から出なくていいかって思ったの?
新矢 そうそう。東京に行かなくても世界に繋がるじゃんって。
樋口 発信もできて情報も入ってくるしね。
新矢 うん。それまでは自分に自信がなくて、アートの世界は自分とは別次元のものだと思ってたのね。イラストレーターの仕事はしていたけど、才能がないと思ってたし、ずっとこのままいくのかなあって。そういう期間がすごく長くて、30代はしばらくそんな感じだったかな。それであるときに、友だちがやっている『SHIFT』っていうウェブマガジンに、ポストカードを作って持っていったのが今のスタイルのイラストだったんだよね。それまでにも私の仕事で描くイラストを見てくれてたんだけど、そのポストカードを見て、「この絵はすごくイイ。このテイストで個展やってみなよ!」って言ってくれて。ついにプロデューサー的な人に出会ったっていう感じかな。
樋口 そうだったんだ。
新矢 それが大きなきっかけで最初は戸惑いもあったんだけど、でもそう言ってくれたんだからやってみようって。
樋口 そうだよね。そこでやってみるのか、やらないのかは大きな違いだもんね。
新矢 もう大きな違いよ。で、やれるだけやってみようって。
樋口 それはお店で、外で?
新矢 お店。ギャラリーというか壁ギャラリーみたいなところで。それで、その情報が『SHIFT』に掲載されて、海外から仕事の依頼が来るようになったの。
樋口 それは時代的にもラッキーだよね。
新矢 自分でこんな個展を北海道でやってますって宣伝しても、やっぱり来てくれる人は少ないと思うんだけど、『SHIFT』に載せてもらえたことで海外にまで広まって、ドイツの人たちから仕事の依頼が来たもんだから、本当にびっくりした。
樋口 ドイツ語で喋ったんでしょ(笑)?
新矢 英語たけど(笑)。「絵を描いてくれないか」って。
樋口 アートってそういうところがすごいよね。俺らって日本語でやってるだけだからな。
新矢 日本語を知らないドイツ人がいきなり仕事をオファーしてくるんだもんね〜。それまで文章は頭に残るけど、絵はそうじゃないから、なんかちょっと空しい感じがするって思ってたけど、やっぱり言葉なんか関係なくて、分かり合えるのは単純に絵だなぁって思えた。
樋口 文章だったりテレビのほうが需用は多いけど、絵みたいに届かない部分があるからね。俺たちの仕事は、状況を考えてモノを言わないと企画の意図が伝わらないけど、絵って一枚で全部を伝えられるじゃない。
新矢 でも、絵もよっぽどじゃないと記憶には残らない。
樋口 そうだよね。そこからドイツでやるようになったの?
新矢 ドイツではデザイン本とかでフィーチャーされたりして、その後に個展をデザインしたり。
樋口 あの一部屋全部のデザインを任されたやつ?
新矢 そうそう、コペンハーゲンのホテルをリ・デザインするっていう企画。絵本の企画もやっていたんだけど、依頼が来て「やった!」って(笑)。まったく制約がなくて、もう好きにしていいよって。
樋口 それってきっと日本の仕事の発注方法とは全然違うんだろうね。
新矢 全然違うね。それまではどっぷり制約のある仕事ばかりをやっていたから、さあどうしようって。
樋口 逆に「提案してくださいよ!」って思うもんね。
新矢 わりと楽しめたけど、お題目もなしでやれって言われるとやっぱり多少はビビる(笑)。
樋口 日本人よりもイエス・ノーをはっきり言いそうだしね。プレッシャーに負けそうになったり、ノイローゼになったりしないの?
新矢 ううん、大丈夫。
樋口 それはしないんだ。
新矢 嬉しい気持ちのほうが大きいから、なんとかしなきゃと思う。はったりでもやれますって言わなきゃとか。そしたらけっこう描けるんだよね。決まるまでは、プレッシャーをすごく感じるんだけど。
樋口 そうだよね。じゃあ、ヨーロッパではじめて絵を描きました、部屋をデザインしました、ヨーロッパの人に見せました、それで向こうの人に何て言われたの?
新矢 それが、良かったのか悪かったのかを聞いてないの(笑)。
樋口 言わないってことは良かったんじゃない?
新矢 出来上がりを見に行ったんだけど、ヨーロッパのアーティストたちは日本にいる私と違ってすぐに行ける距離だから、直接壁に絵を描いたりしてるわけ。すごく羨ましかった。
樋口 こんな環境で仕事してるんだってことが?
新矢 そう、すっごい羨ましかった。私は出来上がってからはじめて現地へ行ってるわけだから、「女だったの?」って言われたりとかね。でも、すべてがはじめての経験だったし、その中にいるだけで幸せで良い悪いとかは判断できない(笑)。
樋口 すごいことだよね。北海道にいたらそこまで自由な仕事は来ないわけでしょ? ヨーロッパに行くとちゃんと芸術家として認めてくれるわけだし、アートディレクターとして認めてくれてるわけでしょ?
新矢 うん。すごい体験だった。
樋口 そうすると、ちょっと天狗になって日本に帰って来なくなったりする人もいるじゃん?
新矢 そうなの!?
樋口 「もう私、売れちゃってこういうところまできちゃったから」っていうさあ(笑)。
新矢 全然思わなかった。むしろ、「すぐに帰らなきゃって!」って。あれは夢だったのかなあって……。
樋口 そういう経験がないと、ここから先がつまらないもんね。
新矢 チャンスに恵まれているんだよね。
樋口 本当にビビったり、プレッシャーがかかるんだけど、逆に楽しめちゃうっていう。人生でいうと、ペーター佐藤が言った「好きだったらいいんだよ」って言葉が当てはまる。
新矢 そうだね。すっごい単純なんだけど、好きだったらいいじゃんって思うよね。
樋口 やっぱりヨーロッパに行った後は仕事内容も変わってくるの?
新矢 それが、やっぱりいきなりトントンといっちゃったから、それまでご飯を食べるためにやってたイラストの仕事が来なくなっちゃったのよ(笑)。
樋口 アーティスト側にいっちゃったことで……?
新矢 そうそう。言葉では聞こえてこなかったけど、札幌の人の中にはもうお気軽に頼めないと思った人もいたと思う。華やかな感じはするけれども、実は生活は苦みたいな(笑)。
樋口 そういう経験をしたばっかりにいろんな誤解をされちゃったのね。
新矢 そうそう。
樋口 偉くなっちゃってんぞとか。
新矢 天狗になってんぞとか。
樋口 なんでも100万円とか言いそうとか。
新矢 そうそう(笑)。私は、戻っても今まで通り仕事をやるつもりだったんだけど。
樋口 自分の影が大きくなっちゃったから、今度はそれを埋めなきゃみたいなね。
新矢 なんか大変だなあ……って。でも楽しい、でもちょっと辛いとかね。その期間が何年か続いた。
樋口 なるほどね。その状況をどうやって打破したの?
新矢 その後も仕事はあるって言えばある状況なんだけど、今まで通りの仕事に絞っていっても、その後もいろいろな話が来るわけよ。
樋口 ヨーロッパから?
新矢 そうそう。
樋口 余計に札幌じゃあ誤解が大きくなってくるってこと?
新矢 うん。
樋口 新矢にしてみればヨーロッパのホテルの絵も描くし、北海道の動物園の絵も描きたいしって。
新矢 そう、なんでそういう風にならないのかっていう。だからって、自分でそういう企画を持ち込んだりするのはできないのね。企画書を書いてっていうのは、めんどくさいから(笑)。
樋口 クライアントと寝て仕事するのとか嫌だもんね(笑)。
新矢 そんな美貌もないし(笑)。企画書を書いて提出したいなあとは考えるんだけど、でもやっぱり企画書を書くのがめんどくさい。勢いのある人だったら、そこまでやって自分のモノにできたりするんだろうけど。
樋口 商業的バイタリティーがある人でしょ?
新矢 どうやらそれがない。そういうバイタリティーを持たなきゃとは思っても、私がやってもいいことはない。2足のわらじは絶対履けないんだよね。
樋口 そういうときに同級生である金の塊みたいな男・中島さん(新矢さんのマネージメント担当)と出会うわけでしょ?
新矢 すごく良い出会いで……。
樋口 いい商人と出会えたわけね。
新矢 絵をすごく褒めてくれたのが本当に嬉しかった。多分褒められることが少なくなってた頃なんだよね。
樋口 彼は褒めることがすごく上手いんだよね。
新矢 「おまえ、すごいなー!」って。
樋口 褒めることと食べることが超うまいんだよね。芸術家はいい気分になるし、料理を作った人はこんなのがあるってもっと美味しい料理を出してくる。だから新矢との相性がいいのは中島が「おまえ、すごいなー!」って言えるから。どんどん身になっていくでしょ?
新矢 どんどん身になる!
樋口 自分をおだててくれる人がいてくれるのはいいことだよね。
新矢 そうだね。それで今までのことを話して。
樋口 真剣に聞いてくれたわけね。中島さんはアメリカ帰りだから「そういうの、俺許せない!」みたいになっちゃったんでしょ、俺がなんとかするよみたいな。
新矢 そうそう(笑)。で、「なんとかしてくれるの?」って。海外に発信していくにも声をかけられないと私は目覚めなかったと思うし、本当に人に恵まれてるなって思う。
樋口 振り返るとそんなもんだよね、人生なんて。
新矢 卓ちゃんとは全然逆だよね。卓ちゃんはもう意識してなくてもこう……。
樋口 呼ばれてなくても座ってるタイプだから(笑)。
新矢 無意識の中で自分をアピールできてるっていうか。
樋口 新人作家とか見ててよく思うんだけど、アピールというのには2種類あって「俺、すごいでしょ!?」っていうアピールが本当だと思うんだけど、実は「あなたすごいですね!」ってアピールのほうが効くんだよね。
新矢 それはあるかもしれない。
樋口 最高の共感だからねえ。
新矢 私もイラストレーターの作品を見て「すごい!」って思ったことを本人に伝えたいって思うことがあるから。
今後の活動とは?
樋口 今後はどういう活動をしていくの?
新矢 夢がないわけじゃないんだけど、具体的な夢を持ってそっちに向かっていくというより、絵が描けて生活できたらいい。それだけなの。
樋口 そうなんだ。
新矢 基盤があるからかもしれないけど、もっとこうなりたいとか特別な欲がない。
樋口 どんどん仕事が多くなって、そういうのでノイローゼになってほしいけどね(笑)。逃亡しちゃうくらいになってほしい。1ヶ月くらい連絡付かないみたいなさあ。
新矢 (笑)いいね、頑張ろう。そういう人に応えたいっていう気持ちと、あと人を育てていきたいっていう気持ちはあるから。
樋口 ちびっ子たちとかそういうのを含めて?
新矢 うん。とくに私には子供がないから、人を育ててみたい。
樋口 俺も今までずっとテレビ、テレビってやってきたけど、ちょっと横を見渡す余裕ができて、小学生の作文教室に行ったりできるようになったけど。
新矢 そういうのとか、愛おしいよね。子供たちに教えたいっていうのも去年から急に思いはじめたことで。
樋口 俺もこのサイトで「ふりがな英語」をやろうと思ったのは、普通にテレビの仕事をしてたらしなくていいんだけど、なんとなくそういう気分になったのよ。ちょっと周囲を見渡せる余裕ができたんだよね。
新矢 多分、年齢的なものもあるかもしれないね。
樋口 「ふりがな英語」のCGを担当してくれている笹生くんとか、そういう輪が広がっていくといいよね。
新矢 そうだね。今はどっちかっていうと、新たに出てくる人たちのほうが面白いし。
樋口 だから新矢もようやく、ずっと育ってきた札幌っていう環境を反映するような作品が描けるようになってきたんだろうね。
新矢 それはあるのかもね。
樋口 みんなもがいてたんだよね。
新矢 タイミングというものなのかな。
樋口 40代の手前になってね。
新矢 そういう人の繋がりって本当に大切だと思う。
樋口 俺が中学校のときに「牛乳の唄」って作ったの覚えてる?
新矢 えっ?
樋口 「♪〜もっと牛乳を飲もう〜♪」ってやつ(笑)。
新矢 あ、覚えてる(笑)! 卓ちゃんって廊下とかでよく歌ってたよね。クラスは別だったけど、廊下でギャグとかバンバンやってるから、他のクラスの人も「卓ちゃんがまた面白いことやってる!」って(笑)。
樋口 その「牛乳の唄」を今録音して、新矢に絵を描いてもらって『みんなのうた』に出ようかなと思ったんだけど(笑)。
新矢 「♪〜もっと牛乳を飲もう〜♪」で(笑)?
樋口 それを誰か歌手を雇って録音して、新矢が絵を描いて、『みんなのうた』でやれたら面白いじゃん。それをアニメにしてもらって、笹生くんにCGを作ってもらって、勝手に『みんなの唄』に潜り込ませる。それを今年の目標にするか!
新矢 それなら、絵本とかも作りたいよね。
樋口 いいね〜。本当に実現したら、子供たちを笑顔にしてあげられるね。




